第2章 ヨコハマデート日和《太宰》
少し開いた距離を、一気に縮めた。
砂色の外套めがけて思いっきり、抱きつく。
『好きです!私は太宰さんが好き!きっと貴方が思ってるよりずっと、ずっと、好き…、です』
背中に回した手が汗ばんでいるのに気づきながらも、私は言葉を紡いだ。
いつの間にか私の頭に乗せられた太宰さんの手が、髪を優しくすいていた。
もう片方の手は、私の背中に在る。
離れられないのはすぐに分かった。
離れたいなんて、思わないけれど。
「隠し事、教えてくれたじゃないか」
『太宰さんが、あんな風に言うから…』
太宰さんの、意地悪。
顔を埋めながら呟いた。
鼻孔をくすぐるのは太宰さんの匂いだ。
どんな貴方も好きなんです。笑ってるときも、たまに真面目な顔するときも。ぜーんぶ、好き。
もう言いたいことは言ってしまえ、とそのまま早口で呟く。
「…流石の私もそこまで言われると、照れるんだけど」
珍しく感情を揺さぶられた、と言いたげな声がして、ふと上を向く。
『太宰さん、ほっぺが真っ赤ですよ』
「…君もだよ。まるで林檎みたいだ」
『じゃあ太宰さんは唐辛子』
「待って?そこは普通、林檎にしない!?何で私だけ唐辛子なのさ!」
『何となくです』
君には飽きないよ、諦めたように太宰さんが笑った。
私も君をいつも想ってたよ、続けざまにそう言われたって、私の頬の赤さが増すだけだ。
其れはさながら熟れすぎの林檎のように。
道で抱き合って、二人揃って林檎と唐辛子みたいに真っ赤な頬をして。
それってなんか、幸せじゃない?
もう一度、ぎゅうっと抱きついた。
離さないでください、そんな言葉を吹く風に溶かして。
離さないさ、言われずとも。
耳元で優しく響いたその声は、ヨコハマの夕と夜の間に紛れていった。
fin