第3章 子守唄
「言ったわ。少しは諦めてくれたけど、まだ時々頼みに来るのよ…」
やれやれ…とため息をつく彼女の隣で、可笑しそうにクスクスと笑う。
何が面白いのか、とユキは顔を上げてじとっ…と彼に視線を向ける。
鶴丸「すまんすまん。いや、君は優しいなと思って」
「…どういうことよ」
鶴丸「何度もやって来る鶯丸を適当にあしらうでもなく、ちゃんと話を聞いてやってるだろ?」
「それは当たり前のことだわ」
当然の如く真顔で答える、彼女の真っ直ぐな紅い瞳を見て、鶴丸は一瞬目を見開く。
そしてまた、クスクスと笑う。
鶴丸「やっぱり、君は優しい。それに面白い。君といると退屈な時間が少ない気がする」
「…そんなことを言うのはあなたくらいよ」
書類へと視線を戻したユキの横顔は、わずかに微笑んでいた。
それが、彼女が初めて見せた笑顔だった。
一番長く、常に傍にいた鶴丸だからこそ気づくことが出来た。
それほど小さく、だが惹きつけるには充分だった。
鶴丸「…君、そんな顔もできるのか」
「…私、変な顔をしていたかしら?」
鶴丸「いいや、なんでもないさ」
「そう…?ほら、早く手を動かして」
はいはい。と、この数ヶ月何度同じようなやり取りをしただろう。
そんな何気ないやりとりが、心地よく体に染み込んでいくのを、ユキは密かに感じていた。