第6章 部下の欽仰と返忠
エルマーは人命救助には参加せず、1人海賊が暴れている広場へと急いでいた。
なぜあの2人は連れて行ったのか、戦闘能力だけなら2人に劣らない、寧ろ俺の方が闘える、なぜ怒ったんだあの人は、エルマーの頭の中を様々な疑問が駆け巡る。
エルマーが広場に着いた頃、既に海賊は鎮圧されていた。
視界の端で、人影が動いたのがわかった。薄汚い細身の男が、幼い少年を抱えてコソコソと広場から離れようとしていた。
「おい、どこに行く!」
「!っ気づかれたか!」
海軍が停泊した港と逆に向かって行く男。まさか船で逃げるつもりか、とエルマーは足を速める。エルマーが先程声を上げた為、脅されていたであろう島民の少年は泣きながら助けを求める。
「うるせぇぞクソガキ!!」
「?!」
持っていた銃で少年の頭を殴りつける男。そのままエルマーに向かって少年をモノのように投げつけると身軽になり、逃走を図る。
エルマーは少年を受け取るとその場に寝かせ、男を追おうとしたが、第三者の登場に数歩進んだ足を止めた。
第三者は光の加減によって淡く蒼く見える刀で男の足を切り落とした。男は勢いよく前に倒れ込み、聞くに耐えない絶叫をあげる。すぐ様斬った本人に意識は刈り取られた。
蒼い刀の持ち主は上司の准将。視線は先程と同様に鋭く、エルマーを睨んでいた。
「今何をしようとした」
「え…、」
「何をしようとしたかと聞いている」
「…か、いぞくを、追おうと」
しました、言葉を続ける前に歩み寄ってきたにより、エルマーは殴りつけられ数メートル後ろの瓦礫に突っ込んだ。
「その頭を殴られた子供を置いてか」
「…っは、」
「船は壊すと作戦で話した。逃げたところでこの男に逃げ場はない。追って殺してどうする。殺しなんて阿保でもできる」
男はと行動を共にしていたアダンが止血をしていた。少年のそばにはクリミアが寄り添い、頭にハンカチを当てている。
「男を殺して、子供が死んでいたらどうする。救えたはずの命を取りこぼして、海賊を根絶やしにするための尊い犠牲だと言うのか」
「言わ、ね、え」
「だろうな。お前はお前の島を襲った海賊とは違う、海兵だろう。お前みたいな子供を出さないために、人々の平穏な日常を守る人間だろうが」
「は、い…」
「目は覚めた?」