第2章 初陣の日
「生憎、こっちは一人たりとも失う訳にはいかねえんでな」
少女はふいと目線を変えた。
「みんなみんな殺して来たくせに、何言うだ」
そうだ、そうだと横の男衆から怒号が上がった。
「あおいおさむらいなんて… ここの主の、政宗なんて、その周りのやつらもみんなみんな、人じゃないんだべさ!」
必死な少女とは裏腹に、政宗の機嫌はどんどん上がっているようだ。
「なぜ、そんなに人を殺せるだか!?
なぜ、強いのがいちばんなんだ!?
それを支える皆の事なんて考えてねえんだべ!
そんなら、農民がおくにをつくった方がいい!!」
「その農民から作られてるのが、この伊達軍でしょうが」
居ても立ってもいられなくなった雄司が、無礼とわかって前に出た。
「さっきから黙って聴いてれば、何なのさお前。ここにいる皆、武家から出てきたやつなんてほとんどいねぇっての。現に、この雄司だって先日農民からここに入ったばっかりのひよっこだし」
少女は依然としてこちらを睨む。政宗は面白い事が起きたとでも言うようににやついている。
「だから何だって言うだ。ここのみんな、おさむらいのせいで苦しめられてるんだ」
「だーかーらー、そんなん全員わかってんだって言ってんだろ!!」
埒の明かない会話と突発的な苛立ちに、雄司はひとり駆けた。軍がざわついた。後ろから小十郎の怒鳴り声や成実の煽る声が聞こえた。
「農民だからこそ、お前らの辛さも! 米一粒の重みも!! ありがたみも!!! 全部全部わかった上で戦ってんだろうが!!!」
雄司は彼女に走り寄りながら、丁寧にすういと刀を抜いた。大丈夫、これはただの銀貼りの偽物、間違ったって殺せやしない。
「これ以上ぐだぐだ言うなら、誰よりも先に俺と勝負しろ!!」
少女へ向けて、ぐっと刀を突き付ける。
「どうなっても知らねえべ」
少女は隣の大槌に手をかけた。雄司は過った不安を隠すように、政宗の真似をしてにやりと笑ってやった。
「そっくりそのまま返そうじゃないか。
…その根性叩き直してやるよ」