• テキストサイズ

「稲つけば」「おのずから」

第1章 思ひ出話


そうそう、女中頭に頼まれたお使いの途中で、東城様に助けて頂いた事もあるの。
あの頃、浪人や天人でタチの悪いのが多くてね。私みたいにぼんやりしてるのは、絡まれることもあったの。
その日も用事を終えた帰り道で、2人組の浪人に声をかけられた。「遊びに行こう」みたいにね。断っても断ってもしつこくて、仕方ないから、柳生家のお手伝いをしてるって、言ったの。だいたいの浪人はそう言うと諦めてくれたんだけど、その時は「だからどうした」って言われちゃって。後から思うと酔っぱらっていたんでしょうね。
グイグイ腕を引っ張られて、もうどうしようかと思っていたら、突然腕を離されて、反動で転びかけた私を抱き留めたのが、東城様だったの。
私を後ろ手に庇って浪人をやっつける東城様は、本当に王子様みたいにかっこよかった。
びっこひきながら浪人が逃げて行った後、「怪我はありませんか?」って優しく聞かれて、思わず私、泣き出してしまったの。
東城様ったら急に慌ててね、近くの甘味屋さんに連れて行かれて、クリームあんみつごちそうになったわ。
「甘い物食べて落ち着いて下さい」って。
なんだかおかしくなって、今度は笑っちゃった。
そしたら東城様は、すごくほっとした顔で「女性に泣かれるのは苦手なもので」って仰ったの。
あーあ、どうしよう。って思ったわ。好きになってしまうって。
そりゃ困るわよ。私はただの下働きなんだもの。釣り合い取れるわけないわ。
それにその時はもう、亡くなった主人との結婚も決まっていて、女中を辞める日も近かったからね。
え?主人には恋してなかったのかって。そうねぇ、お見合いだったから、当事は好きだとか考えてもいなかったわ。嫌だとも思っていなかったけどね。まぁ結果として、息子も出来て、貴女みたいなお嫁さんや孫にも恵まれて、幸せだから、主人と結婚して良かったんだと思うわ。
/ 4ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp