第3章 馴れない距離感(敬浩side )
敬浩side
あの日から、名無しが笑わなくなった。
俺がどんなに機嫌が悪くてあいつに冷たくしてしまっても、いつも笑ってくれた。
「今日の、敬浩は疲れてるね。早く寝なよ。」
こんな風に、声をかけてくれる相手なんてそうそう居ない。名無しといると癒された。
あいつの笑顔を奪ったのは俺。
だから、以前のように接してほしいなんて絶対に言えない。
クタクタになって家に帰る。
いつもは、名無しが笑顔で迎えてくれる。
でも、それもない。
『俺が、望んだことだもんな。』そう言い聞かせてベットに転がる。
疲れもとれないままで眠りについた。
翌朝、テレビ収録でスタジオに入ると、同じ番組収録のがんちゃんに会った。
「敬浩さん!お疲れさまです。」ワンコロみたいな笑顔で近付いてくるがんちゃん。
本当に無意識にがんちゃんを抱き締めてしまった。
「ちょ!なんすか!(笑)がちじゃないっすかー」
がんちゃんの驚いた声で我に返った。
「やべ。ごめん。普通に名無しと間違えた。」
「…。敬浩さん、あいつとなんかあったんですか?」がんちゃんの顔が険しくなる。
名無しの事、いつの間にあいつなんて呼ぶ様になったんだよ。こんにゃろう。
「あー。あいつ言ってないんだ。」
「なんの事ですか?」
「俺、名無しに、ハッキリと言ったんだ。いつまでもズルズルしてても傷つけるし。」
「そうだったんだ。だから最近元気ないと思った。」
ん?あいつといつの間に会ってたんだ?
「あれ。あいつと結構会ってたんだ?」
「はい!まぁ、俺が無理矢理っすけどね(^^)」
「へー。仲良いじゃん。なに、本気なんだ?」
「はい!勿論!だから、俺んちに引っ越してもらおうと思って。」
「は?どーいうこと?」
「あいつ、家事をすれば家賃とか要らないからって理由で敬浩さんの家に居候してたんですよね?仕事場に近いし。だったら、俺の家でもいいよなって思うんです。」
「俺、結構ガシガシ行くタイプなんで、名無しは絶対に渡しませんからね。今さら後悔しても。」
「幸せにしてやってな。」
力なく笑ってがんちゃんに手を降るとリハに向かった。