第1章 駄目ガネの努力
ドアを開けた瞬間、僕は神様を恨んだ。
どうして、僕は平凡なんだろうと。
沖田さんや高杉みたいに中身はともかく、見た目だけでも良ければ、今もっと堂々としていられるのに。
ベッドに座るのは、とんでもない美少女だった。
白雪姫ってこんな感じだったのだろうと思わせる、痛々しいほど白い肌、血が透けて見えていそうな赤い唇、艶めく黒髪。人形みたいな顔。長いまつげ。
痩せている事と肌が白すぎる事をのぞけば、病人には見えなった。
ちょっと長く動くと具合が悪くなるというのは、過保護なだけじゃないのか。
「あなたが、志村さん?」
鈴の音かと思ったら、彼女の声だった。
「は、はい。し、新八です」
直立不動で返事をする。
気の利いた一言も言えやしない。
「新八さん…よろしくね。私」
銀さんの言葉を借りれば、僕はこの瞬間に「依頼人に指名されたからって、調子に乗ったあげく恋に落ちた」のだろう。
さんは、ほとんど外に出る事が無いと言った。
特に、今みたいな寒い時期や、夏の暑い時なんかは、すぐに風邪をひいて肺炎をおこしたり、熱中症になったりしてしまうらしい。
「父上も皆も、心配するし、迷惑かけてしまうから」
そう言うさんがあまりに悲しそうだったから、僕は居たたまれなくなって立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待ってて下さい」
それだけ言って、広い庭に出た。
屋敷を振り向くと、窓からさんが手を振るのが見えた。
春先とはいえまだ寒く、梅の木にも、雪がうっすら積もっている。
膨らみかけた蕾を覆う雪が綺麗で、そっと触るが、柔らかな春の雪は、僕の体温ですぐに溶けてしまう。
庭を見渡すと、まだ手入れ前なのだろう、木の根本に雑草がまばらに生えている。
ふと、青い花弁が見えて、雪を静かによけた。僕はそっと、その花を摘んだ。