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「例えば君」

第1章 ここではないどこかへ


愛人である主人は、本妻が両親の介護で実家に帰っているからと、私を自宅に住まわせたが、使用人達の冷ややかな視線は少しずつ心に積もっていく。
…どこか、遠い所へ行ってしまいたい。
そんな私に、遥か宇宙の星々を行き来する辰馬さんの来訪は、密かな楽しみになっていた。

そんなある日、風呂あがりにクリームをぬっていたら、主人が電話をしながら寝室に入って来た。
「あぁ、そうか。分かった。じゃあ、来週の土曜日に」
「今のた、坂本さん?また商談にいらっしゃるの?」
電話を切るなり聞いてしまった私に、主人は冷笑とも言える笑みを浮かべた。
「妻が帰って来る。悪いが、今週中に出て行ってくれ。部屋はそのうち用意する。しばらくはホテルで良いだろ」
「え?」
「それと、あの商人が来るのは明日だ。もうお前が会う事は無いだろうからな。挨拶くらいしておきなさい」
言いたい事だけ言い、私のネグリジェに差し込まれたその手を、頭が痛いと払いのけた。
その日は、一睡も出来なかった。
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