第1章 純潔
《目標はどんな様子だ…》
右耳に隠してあるイヤホンから、相棒の声が届く。
俺は、その『目標』と呼ばれるターゲットと同じ場所に居た。そいつから少しだけ距離を取り、何食わぬ顔で相棒に状況を報告する。
「…今、目標を指定の場所へ誘導したところだ」
俺がそう答えると、イヤホンから相棒の安堵した吐息が聞こえてきた。
《了解、滞りなく進んでるんだな》
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってる」
《これは失敬…んじゃ、終わるまで死ぬなよ》
「ああ…お前もな」
そう答えたところで、連絡は途絶えた。
俺も気持ちを入れ替えるべく、目標に視線を向ける。
目標は陽気な様子で、俺に酒を進めてきていた。
「すみませんがボス、今は仕事中なので…」
『なんだよ、つれないな…折角こんなにも意気投合したっていうのに』
「それとこれとは別ですよ、ボス」
俺がボスと呼ぶ今回の目標…こいつは最近巷でクスリを違法密輸しながら売り捌いて大儲けしている悪党。
自分の領地だけでやってれば良いものを。
味をしめたこいつが調子に乗って、他の領地まで手をつけるから、こういう輩に目をつけられるんだよ。
「すみません、もう貴方は用済みです」
『なっ、お、お前――っ』
ズドン。
なんて派手な銃声と、目標が倒れる鈍い音が俺の居る部屋に響く。
壁には大量の血が、部屋中には血と銃の火薬の匂い。
そして転がっているのは、無様なクズの死体。
「精々地獄で酒でも呑んでろよ…クズが」
俺はそう吐き捨てて、糞ほどむせ返るような忌々しい部屋を出た。