第1章 純潔
携帯を耳に宛てて、無機質な機械音を数回聞いたあと、無愛想な相棒の声が届いた。
和『…こんな時になんなんです?』
「いや、あれだわ…その、拾っちまったんだよ」
和『はあ…?』
相棒の声の後ろからは、楽しそうな人々の声が聞こえてくる。
ああ、これは相当タイミングの悪い時に
電話をかけちまったみたいだ…。
でも、どのみち…隣にいるこいつの事を
カズには知らせなくてはならない。
何かしらの事件に巻き込まれてるんだとしたら…尚更。
「取り敢えず、ホテルまで戻ってきてくれ…重要な話なんだ」
和『ああ、もう…分かりましたよ』
そう言い切ると、相棒は勢いよく通話をぶち切った。
俺は、少しの間携帯を見つめ、溜め息を吐いた。
本当に厄介な事になっちまったな。
このガキをこれからどうすれば…。
そう考えていた時、ふと隣から手が差し伸べられてきた。
はっとして、隣にいる幼いガキへ視線を向けると、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
『あの…大丈夫、ですか? 電話の相手、相当怒ってたみたいですけど』
カズの声は、携帯の外にも漏れていたのか。
もう少しちゃんと話しておくべきだったかな…。
「ああ、大丈夫だ…お前が心配する事なんかない」
『そう、ですか…』
俺達の会話がぎこちなく途切れたあと、タクシーが目的のホテルに着いた。