【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第7章 潤色 - urumiiro -
…初めて名前を呼ばれた。
『…じゃあ、また明日…亜子。』
その瞬間、ドクドクと自分のものじゃないくらい心臓の音が響き出して、息が詰まった。
さっき軟膏を塗ってもらった腕を眺めながら、このよく分からない気持ちを整理する。素っ気なくて、あんた、としか呼ばれたことがなかったから、少し優しく名前を呼ばれたことに動揺してるだけ。
…それ以外の感情はないはず。
「亜子様、失礼致します。」
言い訳がましくそんな結論を出していたら、
襖の向こうから急に声をかけられて、飛び跳ねるくらい驚いてしまった。また早鐘を打つ心臓を深呼吸して落ち着かせていると、心配そうに雪ちゃんが顔をのぞかせた。
「…大丈夫ですか?驚かせて申し訳ありません。」
「ううん。大丈夫。どうかしたの?」
「はい、先程信長様の遣いの者から伝言がありました。明日、明朝の軍議に亜子様も出席なさるように、とのことでございます。」
「…軍議に?」
「はい。」
「わかった。ありがとう。」
弓術の稽古だけでなく、私どもの手伝いまでしていただいて、疲れでしょうからゆっくりお休み下さい。
そう言って下がっていく雪ちゃんにホッと息を吐く。
まだドクドクとうるさい心臓に気付かれなくてよかった。しばらくそのままぼーっとしていたら、眠たくなってきて、眠気に誘われるがままに夢の中に入っていった。