【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第6章 藍白 - aiziro -
「…入るよ。」
「…え、家康様?何か御用ですか?」
襖を開いて部屋に入ると、きょとんとして俺をみるその子に少し気まずくなりながら、腕を出すように言う。素直に着物をまくり差し出された腕には、思った通り沢山の青あざがあった。
「…あの、」
「じっとして。打ち身に効く軟膏を塗るだけだから。」
「…っ、ありがとうございます。」
「別に。こんな青あざだらけじゃ見苦しいから。」
「…あの、…手間をおかけしてすみません。」
「謝ることじゃない。初心者なら当たり前だ。まあ、あんたは特に素質がないけど。」
そう冷たく言うと困ったように笑うから、
「…今日はよく頑張った方じゃないの。またみっともなく、震えないようにゆっくり休みなよ。
じゃあ、また明日…亜子。」
宥めるように言葉をつないで部屋を出る。
思わず、ぽろっと読んでしまった名前に、彼女が反応するのが見えて、いたたまれなくて。
別に覚えてなかったわけじゃない。
あえて呼ばなかったわけでもない。
ただ呼ぶ機会がなかっただけだ。
そう思っているのに、胸の中でこんなにも言い訳をしている自分に驚きながら廊下を歩いていると、側近の男が近づいてくる。
「家康様、信長様からの遣いが参られました。
明朝、城で軍議を開くとのことです。なんでも、光秀さんから火急の知らせがあると。
近頃城内をどこぞの忍がうろついていると聞きますし、物騒なことが続きますね。」
「全くだ。遣いの者はどこにいる。」
角の部屋で待たせております。
そんなことを話しながら早足に廊下を歩いた。
さっきまでの、どこか浮ついた感情はその時には跡形もなく心から消え去っていた。