【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第3章 刈安色 - kariyasuiro -
「城下も案内して差し上げたいのですが…、」
「そこまでして頂かなくても、」
「いえ、また今度ご案内致します。今日は倒れられたばかりですし、ゆっくりお休みになって下さい。」
「…ありがとう。」
お礼を言うと、彼は満足そうに笑って、私についてくれる女中の篠さんを紹介すると去って言った。
私に与えられた部屋は、日当たりのいい部屋で縁側には大きなイチョウの木がたっていた。秋になるとすごくいい景色になりそう。爽やかな風を感じながらそんなことを思い外を眺める。
「…風に当たりすぎると風邪ひくよ。」
「…え?」
突然声をかけられて振り向くと、さっきあの場にいた唯一名前の分からない彼が立っていた。
「ただでさえ気を失ったばかりで体力が落ちてるんだ。部屋で大人しくしときなよ。」
「…ぁ、すみません。」
「…別に謝ることじゃない。これ寝る前に飲んで。」
「これは、さっきの、」
「気付け薬。また倒れられたら迷惑だから。」
無表情で淡々と喋る彼に思わず姿勢を正す。
「ありがとうございます…。」
「…別に俺はしたくてしてるわけじゃない。」
「……。」
「信長様の命でやってるだけ。感謝するならあの人にしなよ。」
彼の冷たく拒絶する雰囲気に何も言えなくてただ黙っていると、薬を飲むように勧められて。彼は私が薬を飲むのを見届けると立ち上がって、部屋を出て行こうとする。だからとっさに、
「あの、お名前は…!」
そう問いかけると、
「あんたに名乗る名前はない。」
そう言って去って言ってしまった。
信長様も、豊臣秀吉も明智光秀も、みんなとっつき難いけど、私のことを1番拒絶してるのは彼だろう。
薬の包んであった紙を見て一つため息をついた。