【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第16章 葡萄色 - ebiiro -
家康さんが私のことを好きだと言ってくれた、
それが嘘だったとは思わない。
ただ思いたくないだけなのかもしれないけれど。
あの時交わした言葉とキスは、
嘘だとは思えない。
だけど、今の話では城下で、萩姫様が家康さんの子供を妊娠したという噂が広まっている。
この噂はただの噂?
でも、萩姫様が本当に妊娠していたら?
信長様との婚姻を拒むくらいなら、彼女は絶対に家康さん以外に体を許すことはないと思う。それならお腹の子供は、確実に、
…家康さんとの子供だ。
こんがらがる頭ではうまく考えられない。
私と交わした言葉が本当でも、夢でも、家康さんが彼女と一度でも夜を過ごした可能性はある。私たちはついこの前想いを交わしたばかりだし、もし、二人が夜を過ごしていても、
私には何も口を出すことは出来ない。
でも、彼は確かにあの日私を好きだと言ってくれた。
私が信じるべきなのは、
家康さんの言葉で、
私が目に見たものを信じればいい。分かってる。でも、この時代はDNA検査もできないし、
子供ができた
そう言われたら安易に無視は出来ない。
嘘であってほしい。勘違いであってほしい。ただの噂であってほしい。早く自分は、萩姫様となんの関係もないと言ってほしい…。
萩姫様の、
自分が未来から来た素性の分からない人間で、
家康さんには相応しくない、
その言葉が頭に響く。
夕日に照らされた池の側で、全てを打ち明けて丸ごと受け止めてもらえて、私は少し欲張りになってしまっているのかもしれない。
この想いは諦めようと思っていたのに、
私のことを好きでいてほしい。
離れないでほしい。
萩姫様のものにならないでほしい…、
そう思ってしまっている。