【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第16章 葡萄色 - ebiiro -
長い廊下を歩き、自分の部屋に入ると、胸の奥がぎゅっとなった。家臣の方々や女中さん達はたしかにいつもより忙しそうに動き回っているけれど、
安土は平和そのもので。
ここの平和は彼らによって守られている、
とそう強く感じた。
「…はあ、」
心配しても仕方ない。
私に出来ることは何もなくて、待つことしか出来ないとわかってはいるけれど、
戦が終わるまで…、
彼らの無事な姿を見るまでは、
胸の奥に引っかかる何かを取り除くことは出来ないけど、春日山城に攫われる前と、今では、少し気持ちが違う気がした。
…家康さんに、本当のこと言えたからかな。
それとも、
私たちの関係が少し変わったからだろうか。
気持ちを打ち明けて、私たちは、恋仲になった、とそう思っていいんだろうか。抱きしめられた体温を思い出せば、顔が赤く染まるのを感じる。
今なら彼の無事を信じて待つことが出来そうだった。
戦の開戦が安土城にいる秀吉さんに伝えられたのは、
私が帰ってきてから
数日後のことだった。
光秀さんと政宗達と、信長様達が合流して顕如の根城をに向かって進軍していると聞いて、そろそろだと思っていたけれど、
ついに戦が始まったと聞くと、
やっぱり心配でたまらなくなる。無事に帰ってくると信じていても、どうしようもなく心配だ。
「ただ、待ってるだけは辛いよな。俺も出来るなら今すぐ飛んでいきたいくらいだ。」
「…秀吉さんでも、そんなことを考えるのですね。」
「当然だろう。俺は信長様の右腕だ。
あの方に仕え、刀を振るうために生きてるようなもんだからな。万が一の時にそばにいなくて、役に立つことができなかったら…生涯、悔いが残る。」
「…でも秀吉さんは、ここを守ってます。私たちが、毎日をこうして過ごしていられるのは秀吉さんのおかげですから。」
「…ならお前も同じだな。」
「私も…ですか?」
「ああ。俺が信長様が不在の安土を守っているなら、お前は帰って来られる場所を守ってる。俺はそう思うけどな。」
そんな会話を一人で安土城を守っている秀吉さんとしたのはつい最近のこと。
その言葉に少し勇気を貰って、
だからこうして開戦の知らせを聞いても、心配は拭えなくても、不安に押しつぶされることなく立っていられた。