【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第15章 濃紅 - koikurenai -
その噂を直ぐに聞きつけることができたのは、安土城にいる秀吉だけだった。
城下に広がった訳の分からない噂。
「…遂に手を選ばなくなったか。」
思わず零した言葉は誰にも届かない。
家康が萩姫との間に子をなすなんてあり得ない。あそこまで毛嫌いして、まともに顔を合わすことすらなかったんだ。もし、本当に萩姫が子を宿していたとしても、俺たちからしたら家康の子じゃないのは明白。
だけど城下に広がった噂を収集するのは難しい。この噂が家康の領地にまで広がっていたらさらに面倒だ。
本当に子を宿しているか、
そんなことは時が経てば分かるが…、
「…こんなすぐにバレるような嘘、」
噂の出所なんて調べたらすぐに分かる。
どうせ俺たちには、この噂が嘘だということはすぐにバレるんだ。わざわざ、こんなことをする意図は何だ?こんな、余計に、嫌われるようなこと…、
わざわざする意味がわからない。
女の執着は怖い。
ただ単純に家康に恋をする気持ちは、もう跡形もないのだろう。父親に反抗する気持ち、ひとつも靡かない家康に対する執着…。
何がどうなってこうなったのか、
秀吉には分からなかった。
それに彼には手を出す事も出来ない。
萩姫に対して逃げていただけの家康も、
人の心はどうにも出来ないと気づけない萩姫も、
娘をただ思ってるだけの父親も、
全てに引き金があって、
今この状態を作り出してしまっている。
解決できるのは本人たちだけだ。
誰かが幸せになれば、
誰かが不幸になる。
その不幸は、
家康か、萩姫か、はたまた亜子に降りかかるのか。
「…分からないよな、」
でも巻き込まれただけの亜子に、
その不幸が降りかからないことを、
秀吉はただ願うことしか出来なかった。