【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第2章 月白 - geppaku -
「家の者には此方から連絡を入れておいてやる。」
「え?」
「間者じゃないなら、何処の者がいい加減吐け。」
「……。」
「言えないような所の出なのか?」
豊臣秀吉は私のことをまだ疑っていると言ってるのに、こんな優しさは見せてくれるんだ…。でも、出身地なんて言えるわけない。東京だと言っても、この時代にそんな地は存在しないし、
…500年後の世界から来たなんて、
更に言えるはずがない。
黙っていると、段々と険しくなっていく豊臣秀吉の顔や周りの空気に耐えられなくて、体が震える。
「…お前、覚えてないのか?」
でも、そんな私の様子を見てか、ハッとした様子で声をかけて来る豊臣秀吉。その問いに私も驚いてしまって、黙り込んでしまう。
…どう説明したらいいか分からない。
顔を見合わせて、黙り込んでいると、
「…きっと怖い思いをされたのですね。」
「いや、狐に憑かれたのかもしれん。」
私が何も喋らないから、きっとそういうことだと結論付けたのだろう。周りの彼らが話し出す。
…違うと言いたいけれど、じゃあ何故だと聞かれても答えられない。ここに佐助くんがいたら、私より上手く彼らに説明してくれるかもしれないけど、私にはタイムスリップについて説明するのは無理だ。
…嘘を付いているようで罪悪感が広がる。
「なら尚更此処に居れば良い。
…俺は貴様を気に入った。狐に憑かれていようが、貴様が敵の女だろうが、幸運を運ぶことに違いない。記憶があるのかないのか知らんが、此処で俺に幸運運び好きに暮らすがいい。」
何も言えずにただ座っている私を見て、
そうニヤリと笑う信長様に、この織田信長という人の不思議な包容力のようなものに包まれて、ここからは出られないことを悟った。私が何を言おうと、何処の誰だろうと、信長様はきっと何でもいいんだ。いくら拒否しようと、彼は此処に私を置いておくと決めた。
どうせ、行く場所もない。
何処に佐助くんがいるかも分からない。
信長様がここから私を出す気がないなら、それに甘えてしまうのもいいかもしれない。
「私を出す気は無いのですね…。」
「ああ。」
「…なら、…お世話になります。」
そう頭を下げた私に、
「可愛がってやる。」
信長様は満足そうににやりと笑った。