【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第12章 深紫 - fukamurasaki -
夜分遅くに御殿を尋ねてきた光秀に、
秀吉は怪訝な顔を向けた。
「…何の用だ?」
光秀が自分を訪ねてくるのは珍しい。しかもこんな遅くに、となると嫌な予感しかしない。
だが、“亜子のこと”そう聞くと顔色を変えて部屋に通した。光秀はその様子を見ながら、あの小娘にこいつも大概毒されていると、心の奥で笑ったのだ。
「萩姫が亜子に接触した。」
「…は?」
「…萩姫は、亜子に好意を寄せている喜作というあの大名の息子とも関わりがあるようだ。」
「おい、待て…この話家康は知ってるのか?」
「きっと、萩姫づてに知らされた頃だろう。」
…俺は政宗と共に顕如の動向を追うため、城にはいない。肝心の家康は戦に向かう。小娘が懐いている三成もだ。
残るはお前と信長様だけ。
「萩姫には時間がないからな。」
「…何か仕掛けてくる、ということか?」
「それは分からん。でも俺なら亜子に仕掛けるのは、家康が不在の時を狙う。」
「……わかった、気をつけて見ておく。」
「俺の忍びも付けているから、大丈夫だろうが、念を入れるに越したことはないからな。」
…信長様と秀吉しかいなくなるこの期間はどうしても手薄になる。
珍しく随分肩入れしているんだな、そう問いかけてくる秀吉に、人のことを言えないだろう、光秀はそう返して御殿を後にした。
あの子は何だか助けたくなる。
記憶をなくしていても、必死に馴染もうと努力しているところとか、一人で頑張ろうと奮闘している姿とか、そんな姿につい手を貸したくなる。
秀吉はそう考えながらため息をついた。
萩姫が家康にこだわる理由。
そして彼女に時間がないこと。
「…あいつはきっと知らないんだろうな、」
人の恋路に首を突っ込むわけにはいかない。
それにいくら、思い合ってるのが分かっていようと、これは二人が解決しなければならない問題だ。だが、少し手助けしてやる必要があるかもしれない…。
光秀の思惑通り、
秀吉はそう考えて、
次の日の早朝家康の御殿に向かった。