【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第11章 路考茶 - rokoucha -
不穏な影は、すぐ足元に…、
どんどん
伸びてくる。
昼でも薄暗い林の中。人目につかない場所に建てられた小屋に息を潜めている顕如の元に、部下の男が転がり込んできた。
「…どうした。」
「はい。後七日ほどで上杉軍と織田軍の間で戦が始まるようです。」
「…信長は出てくるのか?」
「いえ軍を率いるのは、徳川家康です。」
あの若造が…、
信長が出てこないなら興味がない。安土城下では、迂闊に手を出せない。だからこうして身を隠して時を待ち続けているのだ。
そう顕如が眉を寄せたら、部下が興味を引く話をし始める。
「…顕如様、」
「何だ?」
「今川が取り逃がした信長の妾についてですが、近頃面白い噂が広がっております。」
「…ほう、どのような噂だ?」
信長の妾の名は、亜子。
大名たちの間では、織田家ゆかりの姫と囁かれていましたが、近頃は信長の娘という話まで出ています。妾だろうが、娘だろうが、
「信長にとって切り札になる女になるかと…、」
部下のその言葉を聞いて、
顕如はニヤリと口の端をあげた。
ちょうどいい。この戦に託けて、信長の首を取れるかもしれん。その女には何の罪もないが、うまく利用させてもらうとしよう…。ただ私が出るにはまだ時が早すぎる…。
「…上杉にこの話を広めろ。」
「はっ、」
謙信にもこの手の中で踊ってもらうとしよう。
戦の中で謙信が信長の首を打つもよし、私が横から襲うもよし…。手札は十分に揃える必要がある。
名前の影をすっぽり覆ってしまうくらい、
不穏な影は伸びて伸びて、
家康の影にまでも届こうとしていた。