【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第11章 路考茶 - rokoucha -
「きゃっ、」
「…おっと、大声あげないで下さい。」
グッと掴まれた手に驚いて、
悲鳴をあげると、男は慌てたように手を離し私から数歩距離をとる。優しそうな顔立ちに、高級そうな紺色の着物を着た彼。
「………貴方は、」
「やっとお目にかかれました。」
「…え?」
「何度も文を送りましたでしょう?姫様。」
そう言われて身体が冷える。
「…喜作、と申します。」
「…ッ、」
人の良さそうなその顔立ちが逆に不気味だった。
この人が、あの文の喜作さん。
イメージしていた人とだいぶん印象が違う。
やっぱり秀吉さんの言う通り、しばらくは城で大人しくしておくべきだった、と後悔してももう遅い。
「先ほどのお話聞かせていただきました。」
彼女が何者か知りませんが酷いですね。
姫様が、どんな家柄の方だろうと、どれだけ素性が謎だろうと、信長様の大切なお方には変わりないのでしょう?でなければ、貴方をお披露目する要求に応えないわけもなければ、
貴方を隠す必要もない。
姫様には思いを寄せている方がいらっしゃるようですがその方は、家柄を気にするでしょう。
たしかに、武家にとって家柄は大切です。
ですが、
「私は家柄など気にしません。」
距離は保ってくれるものの、
ニコニコと私を上から下まで眺める彼の視線が気持ち悪い。
「貴方がどんな方だろうと受け入れてみせます。」
その言葉に、
胸がドキンと跳ねたんだ。
まるで弱みにつけ込まれているようで…。喜作さんにお辞儀をすると、城の方へ一目散に駆け出した。
必死に走って城門までたどり着くと、そこには雪ちゃんがいて、すごく安心して彼女の腕に飛び込んだ。
どうして彼女がそこに居たのか、そんなこと気にする余裕は無かった。
「亜子様…、」
心配そうに私の名前を呼んだ彼女は、
そのまま私を支えるようにして部屋まで連れて行ってくれた。私が落ち着くまで話を聞くのは待っていてくれて、その優しさが嬉しかった。
気持ちが落ち着いてから、萩姫様とのことは伏せて、城下で喜作さんに会ったことを告げる。途端に雪ちゃんは顔を曇らせて、
信長様に報告に行って参ります、
と部屋を出て行った。