【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第11章 路考茶 - rokoucha -
『家康様が、後八日程で戦に向かわれます。』
女中さんからその話を聞いて、
私の頭は真っ白になった。
家康さんが戦に行く…。彼は武将だ。戦に行くのも仕事のひとつで、私は行って欲しくないなんて言える立場じゃない。
でも、不安で心配で、行って欲しくない、
そう心が叫んでる。
「雪ちゃん、城下に買い物に行ってもいいかな?」
「買い物、ですか?」
「…うん、布を買いに行きたいの。」
「畏まりました。お気をつけて。」
何度も言う様ですが、
夕刻までにはお戻り下さいね、そう言われて、大きく頷くと、針子の仕事で貰ったお給料を握りしめて城下町に出た。
秀吉さんには、
『喜作はまだ城下を彷徨いている可能性がある。出来る限り城から出るな。』
あの日、御殿から城に送ってもらう間中そう言われたけれど、…ごめんなさい、と心の中で謝って早足に店に向かう。
お目当ての辛子色の上質な布を買い、
店を出たところだった。
「…ちょっといいかしら?」
店の壁に寄りかかって、私を待ち構えていたのは、初めて出会った人同じ橙色の着物を着た萩姫様。
有無を言わせないその視線に、
緊張しながらあとをついていくと、人目につかない路地裏にまで来てやっと彼女は足を止めた。
「あの、なんの御用でしょう。」
くるりと、振り返った彼女の瞳に見つめられ、品定めされている様な雰囲気に耐えかねて、そう尋ねる。
すると萩姫様は、
フッと吹き出して私に近寄ると口元をゆがめた。
「…なんの御用か?って?」
「……ッ、」
「亜子さん、貴方の情報を手に入れるのには苦労したわ。でもやっと尻尾を掴めた。」
「…、」
「貴方、心に決めた殿方がいるんでしたっけ?」
そう言われて、背中を冷や汗が伝う。
そういえば萩姫様のお兄様からの恋文にも、そう返事を書いた。まさか、それが萩姫様に伝わるとは思ってもいなかったけど。
…それは信長様に言われるがままに書いたこと。
でもお兄様の恋文にそう書いてしまったから、今更嘘でした、なんて言えない。それに、
私が家康さんに好意を寄せているのも事実…。