【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第10章 紺鼠 - konnezu -
みな彼が声を上げるのは分かっていたのだろう。
今川の残党にいいようにされたこと、家康に落ち度はないとはいえ、負けは負け。武将として、男として、早く負けを取り返したいと、そう思うのはみな理解できる。
だから誰も声をあげなかった。
ただひとり、信長だけは面白そうに家康を焚きつけ、そして、
「いいだろう。貴様が行け。」
そう許可を出した。
月が変わる頃、後10日もすれば家康は戦場に赴く。
そのことを亜子が知ったのは、次の日。その話を聞いて彼女の心には、不安が溢れた。
「…萩姫様。あの女のことが分かりました。」
「遅かったわね。」
「はい。」
織田家の血筋の家を隈なく捜査いたしましたが、
「亜子という姫様は何処にも。」
「………どういうこと?」
「はい。大名の間では、信長様の娘だという話もありますが、その線は薄いでしょう。」
「ええ、そんなはずないわ。じゃああの女はなんの由緒もない、…いや、素性も分からない女ってこと?」
その様です。
そう頭を下げる忍びに、礼を言うと、萩姫はニヤリと笑った。なぜ、織田軍の武将たちが揃いに揃って彼女を守っているのかは分からない。でも、
「気にするまでもなかったようね。」
「…姫様、どうなさいますか?」
「先ずは…、あの女に話を付けるわ。その後、この女の話を利用させてもらう。」
城下に出たきたところを狙うのよ。
光秀の忍びが付いているでしょうけど、貴方がそいつの相手をして。その間に私が話を付けるわ。
その萩姫の言葉に、忍びは一つ返事をする。
今日も、家康の御殿に行こうかしら。お父様との約束まであと少ししか時間は無いけど、天は私を見放さなかったみたい。
今日は何故だか、家康に会える気がする。
ふふっと、
楽しげな萩姫の笑いは、不穏な色をしていた。