【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第10章 紺鼠 - konnezu -
「貴様、まだ記憶は戻らんか?」
次の日信長様に呼び出されて天守に来た。
部屋に通されるなり投げかけられたこの質問に、体を硬くしつつ、頷く。本当の事は、まだ言えない。
…また一つ嘘を重ねちゃった、
「まあ良い。記憶が戻ろうが戻るまいがどちらでも構わん。」
「…あの、信長様。これは、」
「貴様宛の文だ。」
そう言われて手渡された紙の束を受け取る。
一体何枚あるか分からないけど、私一人に宛てられた手紙にしては数が多すぎて思わず言葉を失う。誰一人顔も名前も知らない人たちだと思うとゾッとするくらい。
「………何で私にこんなに文が、」
「貴様の情報がどこから広まったかは知らん。だが、男とはそういう生き物だ。」
「え?」
「名前も顔も分からないが、麗しい女がいると聞けば一目会ってみたいと思う。俺にまで貴様の披露を要求する文が届くくらいだ。」
「…私、本物の姫じゃないのに。」
「フッ、気にせずとも良い。貴様は俺の持ち物だ。他所に嫁がせるつもりはない。だが、面倒な事になる前にこの文の返事くらい出しておけ。」
「…恋文の返事なんかかいたこと、」
「“心に決めた殿方がいる”そう書けば良い。大抵の男はそれで諦めるだろう。」
そう言って、
信長様は書簡に目を通し始める。
わたしは織田家のゆかりの姫じゃない。
信長様が何を考えているかは分からない。三成くんや家康さんは書かなくていいとおっしゃったけど、これは大人しく返事を書いた方が良さそうだ。
大量の文を一枚一枚広げて目を通す。
その中でも一人だけ数え切れないくらいの文を出してくれている男の人がいた。