【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
秀吉さんは何か言いたげに眉を寄せながら、
それでも何も言わずに萩姫を見張るため城に戻った。
送らせるのは癪だけど、三成には亜子の護衛のため、すぐ側の部屋で待っていてもらう。
しばらくして、部屋に来た亜子は、
「…亜子、」
「はい、」
苦しげに眉を寄せていて、
素直に感情が顔にでるこの子を愛らしいと思う。
きっと、萩姫とのこと、もっと聞きたいんだろう。
気になって仕方ない、とそんな顔をしてる。
「…今日、あんたを城へ返す。」
でも、何も知らない方がいいだろう。
あいつと俺との間には何もない。
俺からしたらあるのは嫌悪感だけだ。
それに、素直に口にしてはいないけど、あんたのこと嫌っては無い、そうヒントはあげた。
もう少しだけ、頻繁に会えなくなるこの間は、
俺のことを悩んで思ってくれたらいい。
…そんな俺のわがままが、
「へ、」
「…あんたを襲った浪人も、その仲間も牢の中だ。ここで預かる理由がなくなった。」
「……えっと、」
「…俺も明後日には復帰する。次に会うのは城でだ。」
「…そんな、急に、」
「信長様の命だから、ね。荷物は女中に準備させてる。直ぐの部屋に三成がいるから、詳しい話は三成に聞いて。」
「……、」
「…じゃあ、また、城でね。」
「…はい、お世話になりました。」
まさか、こんなにもすれ違う原因になるとは思わなかったんだ。
近づきかけていた距離。
気持ちは言葉や表情に表さないと伝わらない。
この時の俺は、
なぜかもう亜子を手にしたつもりでいて、
彼女の心の中に、不安があっても
大丈夫だ、
と根拠のない自信があった。
だから萩姫のことも、
亜子に送られる恋文のことも、
亜子自身のことも、
何も見れていなかった。