第8章 橙色 - daidaiiro -

「それは、本当に私宛ですか…？」
「安土城にいらっしゃる姫様は、今は亜子様だけです。」
「でも、わたし、外にも出てないし…、どうして、」
「それが分からないから亜子には黙ってた。」



また攫われる原因になりかねないし、余計なこと言って混乱させると思って、みんなで黙ってた。

そういった家康様は、気まずそうに目をそらす。

三成くんは頭を下げて、こんな風にバレるのなら早くいっておくべきだったと、謝る。



「……、わたし、」
「…萩姫の言うことは気にしなくていい。」



その恋文は捨てな、

とさらりと告げた家康様。人の書いた文を読まずに捨てていいんだろうか、と悩むわたしを見て、
三成くんが、

しばらく私がお預かりします、と言ってくれた。



「まだ混乱されているようですし、ね。」



名前も顔も知らない人から文を頂いても、困りますよね、そう優しく笑ってくれるから、そっと彼に文を預ける。
家康様はその一部始終を、不機嫌そうな顔をして見ていて。

私が素直に言うことを聞かなかったからかな、と

反省していたら、秀吉さんが一人で部屋に入ってきた。




「…秀吉さん、萩姫は。」
「…あいつは側近に安土城に送らせた。まだ信長様に挨拶してないようだったからな。」
「そうですか…、」
「萩姫について二人は知らなかったよな。」



秀吉さんは家康様に萩姫の説明をしたか？と尋ねる。

ふいっとそらされた顔を見て、ため息をつくと彼女いついて話してくれた。



「萩姫は、近くの国を治める大名の娘だ。昔から俺や家康とは交流がある。」
「…あいつがいるとろくなことが起きない。」
「…家康。元はと言えばお前があいつに優しくしないからこうなってるんだろう。」
「優しくしたら余計につけあがります。それに、嫌いな奴にあげる優しさは生憎持ち合わせてません。」
「はあ、…、」



だから余計にお前に執着するんだ、

その秀吉さんの言葉に心臓の音が嫌に大きく響いた。