第2章 華守
リオノーラは、雷雲に身を包み姿を隠した
傷つけたくはない人だった
失いたくない人だった
《お願い、島を守るために、あの男を殺して!》
「嫌よ」
《どうして!!忘れるって約束したじゃないか!》
「...」
あの時の記憶だけは、いつまでも忘れていたくない
600年の月日の中、たった3年だけ彼らと共に過ごした日々
華守の役目から一時だけ離れることができたあの3年
「......リオノーラ...って...」
あぁ、誰だ
知っているはず
その名前を、アルテミスの名を名乗っていた彼女を...
灰に埋もれていた記憶が、再び輝き出す
無くしたくない、かけがえのないもの
「......リオ...?」
そこにはいなかった
そこには、彼女だけいなかった
消された、隠された存在
「生きて...たんだな......リオ」
《リオノーラが悪いんだ!せっかく君の存在の記憶だけ消してあげていたのに!》
「余計なお世話。私は、あの頃が一番幸せだったもの」
華守は、恋をしてはならない
華守は、命を捧げてはならない
「私は、ここを出たい」
《なに言って...》
「世界を知りたい」
そう、ずっと秘めていた思い
救えなかったものを、今度は守りたい
《...行かせないよ》
「ねぇ、リューゲ。私は知っているのよ」
《何を...?》
「華守は、私は...あなたを護るために落とされた存在でしょう...?本来の華守が、力を得るまでの護衛が私ってこと」
そう、知っていた
自分は、単なる神の奴隷
目の前にいる白い竜こそが、本当の華守
リューゲが華守としての力を得るまでの、代理であり護衛が私だ
「あなたはもう、立派よ。だから私の役目はこれで終わりなの」
《何を......》
だからこそ、私には必要のない“永遠の命”
永遠を与えて、枯れた華を再び咲かせることができる
「この花を、咲かせるわ」
《やめて!僕はまだひとりにはなりたくない!》
《スィールス・ハルファルト(女神堕とし)》