第14章 紙魚の恋心 ~黒子テツヤ~
私の世界は狭くて広い。
宇宙にだって行けるし魔法の世界も旅できる。偉い人の人生を覗き見る事だって出来るし腕利きの探偵のように推理を働かせる事だって出来ちゃうのだ。
それもこれも、私の大好きな彼、黒子テツヤ君が読書家なおかげに他ならない。
私と彼が出会ったのは、彼が中学2年の時。
カラフルな髪色のお友だちと一緒に、修学旅行で私の居た京都にやって来た時だ。
その時私はまだ何も知らなかった。
だって彼らはとても仲が良くて、楽しそうだったから。
本を濡らさないように、それでも何かに堪えるように涙を流すテツヤ君の姿を見ることになるなんて思っても見なかった。
テツヤ君のお陰で私は辛いときに"友達"や"家族"、そして"恋人"を慰める言葉を沢山知った。
でも彼にそのどれをも伝える事は出来なかった。
だって私と彼の関係はどれにも当てはまらなかったから。
深く深く傷ついた彼に私が出来たのは、今も昔もそっとそばにいる事だけ。
しかもテツヤ君が"もう要りません"と言えばすぐにでも居なくなってしまわないといけない儚い存在。
ああ、どうかテツヤ君がまた笑って過ごせる日が来ますように。
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テツヤ君がバスケをしなくなってから半年と少し経った。
テツヤ君は明日から高校生になる。バスケを止めた彼はずっと読書に没頭するか受験勉強するかで過ごしていた。
読書の時は、私の声にも気がつかないみたいに最後まで一気に読んでしまっていた。まるで余計な事を考えなくても良いように、とでも言いたそうだった。
私は手持ち無沙汰にソワソワしているしか無かった。
そんな私はここ最近、ずっと某NBA選手の名言を眺めている。
時を同じくして、またテツヤ君がバスケットボールを手にストバスへ行くようになり、読書のペースも以前に戻った。
そして何よりもその瞳が。
きれいな薄氷色の瞳の奥に、触れると焦げてしまいそうな位の強い意志の光を宿すその瞳に、私は釘付けになっていた。