第4章 さてその他は皆狂気の沙汰~黒子~
黒子side
待ちに待った放課後。
黒子のクラスの担任も既におらず、教室内は連れだって部活に行こうとする者、帰宅しようとする者などで賑わっている。
そんな浮き立つクラスを眺めた後、自分もバスケ部に向かうため荷物を整えていると、その視界が急に遮られた。
『だーれだっ』
「・・・っ」
小さく柔らかな手。鈴を転がすような声。
相手が誰かを認識するより前に肩が揺れていた。
驚きにまばたきを繰り返し、思考が遅れて追い付いてきた事で何とか声を上げずに耐えきった。
『なーんてね。ビックリしたっしょ?』
至近距離から元凶の少女がしたり顔でのぞきこんで来る。普段存在感の薄さで人を驚かせる事はあっても逆は無かったので、悔しいやら恥ずかしいやら。
(これは仕返ししても許されますよね)
「さん・・・あんまりふざけてるとしっぺ返しを喰らいますよ?」
『へ?うわぁっ』
さんの手を掴み、わざとちゅ、と音を立てて手首に口づける。
すると案の定上擦った声が彼女から上がる。
数名のクラスメイトが何事かとこちらを見るが、恐らくボクの姿は認識されていない事でしょう。
「ほらね?部活に行くんですよね、一緒に行きましょう」
彼女もそれに気が付いたのか、ボクが続けた言葉に可愛らしい反論を連れて走り寄って来た。
『~この天然タラシ!ヘンタイ!!』
「え?しっぺ返しが足りないんですか?」
『ナンデモナイデス』
余程、顔が赤いですよと更にからかってしまいたかったが、自分の頬も赤く染まっているのを自覚しているだけに、平静を装って切り返すのが精一杯でした。
手首へのキスは欲望、でしたかね。
彼女には知ってほしいです。あんな事、異性に気軽にしちゃいけないっていう事を。
ましてやあんな風に距離を詰めて来るなんてもっての他です。
・・・ボク以外には。
本当は、違うところにもキスしたいなんて言ったら彼女はどう反応するでしょう?
キミに探して貰えて、あまつさえ見つけて貰える。それがどんなに嬉しいかなんて、キミが好きだと白状するようなものなので言えないけれど。
大分彼女に溺れているようだと改めて自覚した、ある日の放課後のお話。
Fin
→あとがき