第4章 別れ
移動の途中で雨が降って来た。
何かを警戒している様子のケニーは、雨宿りに信頼できる知り合いの飲み屋の納屋を借りた。
飲み屋のおじさんは、私とケニーにパンなどの食べ物を持って来てくれた。
「俺の分はお前にやるよ。」
と、ケニーは私の手に自分のパンを乗せた。
私は・・・渡されたパンを見つめて、先程からずっと考えていたことを口にした。
『ケニー・・・父さんは私が家にいないこと知ってるの?これから行く所に父さんもいるの?』
そう、ケニーが急に家に来て、私を連れて家を出た。
父さんもいないのに。
今朝、普段と変わらず仕事に行く父さんからは、ケニーが来るなんて聞いてない。
それにいつものケニーとは、明らかに様子がおかしい。
「ロードは・・・仕事でヘマして死んだ」
それまで黙りこんでいたケニーは、そう私に言った。
『・・・・・え?』
(何?なんて言ったの?誰が死んだの?)
『もうケニー、冗談はやめてよぉ・・・』
(そんなこと、あるわけない。)
ケニーは否定しない。
『だって、父さんは今朝も普通に朝ご飯食べて、今日は早く帰るからって仕事に・・・。それに、今日は父さんの好きなきのこシチューを作ったの。おいしく出来たから、父さんが喜ぶと思って・・・それで・・・ケニーが来て・・・父さんは・・・・』
ケニーは俯いていて、どんな表情をしているか私からはよく見えなかった。
『嘘、でしょ?嘘だって言って・・・お願い。』
頭が、ついていかない。
状況が理解できない。
隣に座るケニーの腕をつかんで揺する。
するとケニーは、私の両肩に手を置き、しっかりと私の目を見据えて話始めた。
「あのまま、あの家にいたら、お前にも危険が及ぶ。ロードをやった奴等が娘のお前を探すだろう。ロードからの頼みだ。万が一のことがあったら、ユナを安全な所へ・・・とな。」
私の視界は次第にぼやけていき、言葉にならない声に苦しくなっていった。
それから後のことは、よく覚えていない。
いつ納屋を出発したかも、どこを通ったかも、どうやって歩いたのかも。
ただ、気がついたら地下街の一角の家にいた。
ケニーとは、話したくなかった。
まだ父さんが生きていると、迎えに来てくれると信じていたかったから。