第1章 1
きゃあきゃあと笑いながら、女の子たちがボクたちの横をすり抜けていく。
その最後尾に、晴ちゃんの重たげな髪の毛がえっちらおっちらついてってると、ついつい目で追いかけてしまうんだ。
(うーん。本気で好きになっちゃったなあ)
最近しっかり自覚した気もちの置き所に、実はまだ少し困ってる。
なんでって、ボクは晴ちゃんを好きになったものの、晴ちゃんのことあんまり知らないんだ。……文にするとひっどいなこれ!
ともかく、だからボクは、晴ちゃんのことを知ろうと思ったのだ。
晴ちゃんはボクと同じく六角中1年、美化委員で部活は美術部。とりあえず六角中にお兄ちゃんお姉ちゃんはいないみたいで、えっと、猫が好き。で、たぶん……あんまり友達は多くない。
……今んとこ、知っているのはそれくらい。
クラスも委員会も違うし、ボクの友達のだれかと仲がいいってこともない。美術部なんて正直未知の世界すぎてぜんぜんわかんないし。なんかお上品そう。もしくはオタク?
これだけ接点がなかったのに、ボクが晴ちゃんのことを知ってたのは、あの称号のせい……ええっと、その、学校一。
(いいプレイするためだからって、ホントにひどいことしてたよなあ)
ボクがボクにプレッシャーをかけるためにって、試合でも練習でもよく言ってた、「学校一のブス」。
今となってはホントに反省してるんだ。晴ちゃんのこと、傷つけちゃったって。まわりからそんなこと言われるだけでもイヤな気分になるのに、そんなことでっかい声で言ってるボクみたいなヤツがいたらどんな気分になるだろうって。
もちろん、今はボクは晴ちゃんがブスだなんてこれっぽっちも思ってない。
でも、他のヤツらはまだ晴ちゃんのことをそうやって言ってて、だからボクは、晴ちゃんのことを守ってあげなくちゃって思うんだ。
そのためには晴ちゃんと仲良くなりたくて、だからそのためには晴ちゃんのことを知らなくちゃいけなくて、うん、そういうわけだから。
だから、つまり、ボクは晴ちゃんのことを知るためにいろいろこう、聞きまわったり観察してみたりしてみようと思ったのだ。