第8章 姫巫女と最初の一週間
「見て見て」
「どこ?」
「赤毛ののっぽの隣」
「メガネ掛けてる奴?」
「顔見た?」
「傷見た?」
そんな囁き声は、シオンの耳にも届いていた。
彼らの関心を捕らえているのは、『ハリー・ポッター』だ。
爪先立ちでハリーを見ようとしたり、廊下ですれ違った後でわざわざ引き返したり。
ヒマワリ、マリア、シャーロット、シェリルとは同室だからか、必然的に一緒に行動する機会も多い。
彼女たちをハリーとロンに紹介すると、彼女たちもやはり、目を丸くしてハリーを見た。
特に、シェリルの興奮は凄い。
『例のあの人』を打ち破った『ハリー・ポッター』に、強い関心を持っているようで、普段はあまり表情を変えない金色の髪の少女は、ハリーの手を掴んで目をキラキラさせていた。
こうして、シオンの学校生活一日目は始まったのだった。
ホグワーツにはたくさんの教室と同時に、たくさんの階段が存在する。
階段の数は一四二だ。
その階段も様々な特徴があり、広い壮大な階段から、狭いガタガタとした階段、金曜日にはいつも違うところへ繋がる階段、真ん中辺りで一段消えてしまう階段……などなど。
扉にも色々ある。
丁寧にお願いしないと開かない扉、正確に一定の箇所をくすぐらないと開かない扉、しまいには、扉のように見えるが、実は硬い壁が扉のふりをしている、もはや扉ではない壁まであるのだ。
それ以外にも、物という物が動き、どこに何があるのかすら分からず、肖像画の人物も出かけたり訪問し合ったりしているようだ。
シオンの場合は、道順を覚えるのが得意だというシャーロットや、龍宮に仕える《送り提灯》という妖怪(道案内を得意とする妖)のおかげで、どうにかまだ迷ったことはない。