第7章 姫巫女とグリフィンドール寮
布団が変わったから眠れない。
そんなわけではないと思うが、シオンはどうにも寝つけなかった。
気になるのは、父の言葉。
父の言葉に反して、ハリー・ポッターとの関わりを続けること。
後悔しないと決めたけれど、それでも引っかかってしまう。
ダメだな……こんなだから、わたしはいつまでたっても弱虫なんだ。
「月映さま……」
『眠れぬか、シオンよ……』
キラキラと降り注ぐカーテンの隙間の月光に、月映の金色の身体が輝く。
「少しだけ……」
『気にかかるか……? ハリー・ポッターのことが……』
自分で決めたことをウジウジと悩んでいる。
そんな自分が嫌になってしまう。
シオンが黙っていると、月映は枕元まで降りてきて、スリ…と頬を寄せた。
『シオンよ……我はそなたの決定に従おう。そなたが望むならば、災厄すら跳ね返し、困難な道を切り開き、共に征く。そなたのためなら労を惜しまぬ。龍宮に従う者たちとて思いは同じ。何も、恐れることはないのだ』
何も、恐れることはない。
その言葉を、シオンは心の中で繰り返した。
『そなたがハリー・ポッターの力になりたいのなら、好きにすれば良い。そなたの父が忠告をもたらしたのは、そなたを愛するが故のこと。関われば、困難に巻き込まれるやもしれぬ。父はそれを危惧しただけよ』
「……うん……ありがとう、ございます……」
脳裏に父の姿が浮かぶ。
シオンにとって畏怖の対象であり、敬愛する父の背中。
厳しくも優しい父が、シオンは大好きだった。
叱られた後は、悲しいのと怖いのとで泣きじゃくって……。
けれど、その後、父の使いの妖がシオンの好きな甘い和菓子を持ってきてくれた。
主人の命令だと言って。
「父上に手紙を書きます。わたしは、わたしの道を行く。たとえ、どんなことが待ち受けても、乗り越えてみせる。『龍宮の姫巫女』として、『サカキの杖』に選ばれた者として、勇敢なグリフィンドール生として……そして」
父上の娘として――。
もう迷わない。後悔もしない。
だって――わたしは、一人ではないのだから……。