第5章 姫巫女と最初の友達
ハリーがその名を恐れないのは、勇敢さゆえか、それとも無知さゆえか。
たとえどちらだったとしても、『生き残った少年』の口からその名前が放たれることには、何かしらの意味があるように思えた。
「寮って、他に何があるの?」
ハリーの問いにシオンは一つずつ挙げながら指を折る。
彼が魔法界について無知だということを正しく理解し、ハーマイオニーのように「知らないの?」といちいち言うことはしない。
ロンはまだ落ち込んでおり、説明をする気はないようだ。
「グリフィンドールは勇敢な生徒が、ハッフルパフは優しい生徒が、レイブンクローは頭の良い生徒が、スリザリンは狡猾な生徒が振り分けられるんだよ」
「へぇ……」
ざっくりとした説明ではあったが、ある程度のイメージはついたらしい。
寮の話が進むにつれて、コンパートメントに重たい空気が漂う。
発生源はロンだ。
「あのね、ロン。スキャバーズのヒゲの端っこの方、色が黄色になってるみたい」
さきほどの、「お日様、雛菊〜」の魔法は、百パーセント失敗したわけではないということだろうか。
ハリーは、ロンが寮のことを考えないようにと話を変えた。
「ロンの大きな兄さんたちは、ホグワーツを卒業してから、何をしてるの?」
「次男のチャーリーは、ルーマニアでドラゴンの研究。長男のビルは、アフリカでグリンゴッツの仕事をしてる」
そこまで言って、ふと思い出したように、ロンが「そういえば」と続けた。
「グリンゴッツのこと、聞いた?」
「グリンゴッツのこと? 何も知らないけど……」
ハリーに目配せをされ、シオンも首を横に振る。
「『日刊予言者新聞』にベタベタ出てるよ。でも、マグルの方には配達されないから、ハリーは知らないか。シオンも知らない?」
「わたしは……家(ウチ)が新聞取らないから、世間に疎くて……」
「そうなんだ。……実は、誰かが特別警戒の金庫を荒らそうとしたらしいよ」
「「え……っ⁉︎」」
シオンとハリーが目を丸くする。
驚くのも無理はない。
グリンゴッツは、世界で一番安全な場所と言われるほどの銀行なのだ。