第15章 姫巫女と大祓儀式
マリア、シャーロット、シェリル、ハーマイオニーと別れ、シオンはヒマワリと一緒に飛行機に乗り、日本へ帰ってきた。
山を登って龍宮神社の鳥居を潜れば、一瞬で周囲の空気が澄む。
空はすでに橙色に染まり、夜の帳は降りる準備を始めていた。
境内にはたくさんの人が集まり、慌ただしくもどこか厳かな雰囲気を持って、儀式の準備をしている。
そのとき、準備をしていた一人の男性がシオンに気づいた。
「シオン様!」
男性の声を聞いた人たちも、作業をする手を止め、シオンへ駆け寄る。
「シオン様、お戻りでしたか!」
「皆さん、ただいま」
彼らにそう返すと同時に、ヒマワリが一歩下がった。
彼らも、まるでヒマワリの姿など見えないように、彼女へ視線を向けることなく、シオンの名前だけを呼んだ。
「魔法学校はいかがですか?」
「友人などできたでしょうか?」
「日本の食事が恋しくなったでしょう?」
「意地悪をしてくる者などいませんか?」
そんな彼らの言葉へ曖昧に受け答えしながら、シオンはそっとヒマワリへ視線を向けた。
人形のように佇む彼女に、シオンは一度キュッと唇を引き締める。
「ごめんなさい……わたし、父上に挨拶しないと!」
彼らの返事を待たず、シオンはヒマワリの手を取った。
「シオンさま?」
驚くヒマワリを無視して、シオンは力任せに細い腕を引っ張る。
その背中から、彼らの言葉が風に乗って耳へ届いた。
「あれが傍系の娘か」
「分家の子を差し置いて、傍系の娘が魔法学校に通うとは……」
「血が薄れているのは知っているが」
「あの娘の両親は、娘に関心がないらしい。父も母も、愛人を作って家にも帰らぬとか」
「そんな両親から生まれた子が、『龍宮の姫巫女』と共にいていいのか?」
「どうせなら、私の娘が魔法学校へ通った方がよかったのにな」
「本当に『龍宮』の血があるかも怪しい。妖も碌に呼べんらしいぞ」
「傍系風情がしゃしゃり出て、あつかましい」
身勝手な彼らの言葉の数々に、シオンは足を急がせる。
血だ家系だと口煩くヒマワリを貶める彼らに、シオンの心の奥底からふつふつと怒りが沸いた。
それなのに、その怒りを彼らにぶつけることができない自分が情けなかった。