第4章 姫巫女とホグワーツ行特急列車
「ひ、人がいっぱい……」
杖を買った翌日――十時半頃にキングズ・クロス駅に着いたシオンは、すでに帰りたい気持ちだった。
周囲を歩く人たちはもちろん、知らない人間だ。
荷物をいっぱいに乗せているカートを押しているせいか、歩くだけでも疲れてしまう。
ガヤガヤ、ガヤガヤ、という喧騒に酔ってしまったのか、気分が悪くなってきた。
月映が話しかけてくれれば気も紛れるのだろうが、周囲にいる人間たちは、魔法を知らない非魔法族(マグル)。
もし見られでもしたら、入学する前に退学だ。
「えっと……」
シオンは切符を確認する。
目指す場所は、『九と四分の三番線』だ。
けれど、駅には『九番線』と『十番線』しかなく、九と四分の三番線など存在しない。
だが、少女は当然、九と四分の三番線への行き方を知っていた。
そこへ、誰かが後ろからぶつかって来る。
「あ……っ」
つまずいてカートをひっくり返しそうになったのを、その人物が受け止めてくれた。
「ごめん。大丈夫だったかい、お嬢さん?」
振り返れば、シオンよりいくつか年上くらいの少年が、申し訳なさそうに声を掛けてくる。
赤毛の少年に手を伸ばされ、シオンは躊躇いながらもおずおずとそれを握った。
「大丈夫です……こちらこそ、すみません、よそ見をしていて……」
「いや、僕も周りを見てなかったから……」
そこへ、新たな人物が登場する。
「ジョージ! 何してんだよ!」
「あぁ、フレッド。ごめんごめん。この子にぶつかっちゃってさ」
驚くほどそっくりな、瓜二つの少年だ。
もしかして、双子だろうか。
「何してんだよ、母さんが探してたぞ」
「分かった、すぐ行くよ。じゃあね、お嬢さん」
手を振ったジョージが、フレッドを連れて去って行く。
その背中を見送ったシオンは、ハッと我に返った。
「いけない、急がなきゃ!」