第11章 姫巫女とハロウィーン
あ、と声を上げそうになって、シオンは声を抑える。
「ニンバス二〇〇〇だって! 僕、触ったことさえないよ!」
「すごい! あたしも、本物見るの初めて!」
クディッチのファンであるロンとシェリルが興奮して騒ぐのを、マリアとシャーロットが止めた。
そう。一年生は自分の箒を持ってはいけない。
ハリーに関していえば、クディッチの選手へ抜擢されたために例外だろうが、他の生徒はまだ知らないことだ。
「ねぇ、ハリー。あたしにも見せて!」
「もちろん」
目を輝かせて珍しくはしゃぐシェリルの手を、ハリーが引く。
どうやら、一時間目が始まる前に、一度開いて見ようとしているようだ。
その後ろを、ロンが遅れないようについて行った。
「あら、シオンは行かないの?」
「うん……箒の良し悪しはよく分からないから」
ハリーやロンと一緒に行動することが多いからか。
意外そうに目を丸くするマリアに、少女は眉を下げる。
「シャーロットはいいの?」
シオンが尋ねると、シャーロットは微笑んだ。
「はい。私も箒に詳しいわけではないので」
家柄から見ても、人並み以上の知識はあるのだろうが、箒に対してあまり興味はないようだ。
すると、ヒマワリが突然、シオンのローブを引っ張った。
「シオンさま。あたくし、シオンさまにお願いがありますの」
「お願い?」
首を傾げれば、美しい容貌に苦難の色を滲ませて、彼女は言葉を紡ぐ。
「あまりハリーやロンに関わらないで欲しいのです」
「え……?」
何を言われたのか分からず、シオンの思考が停止した。
マリアが何か言おうと口を開こうとして、シャーロットがそれを止める。
ヒマワリが簡単な思いつきで言っているわけではないと分かったからだろう。
シオンが返事をできずにいると、ヒマワリは重苦しい表情のまま続けた。