第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
『……扉の上だな。おそらく、ケルベロスは仕掛け扉を守っていたのだろう』
いつの間に姿を消していたのか、月映が金色に輝く長い身体をくねらせて現れる。
「えぇ、その通りよ」
黄金の蛇の言葉に頷いたハーマイオニーは、再び目を吊り上げてシオンたちを見た。
「あなたたちも、さぞかしご満足でしょうよ。もしかしたら、みんな殺されてたかもしれない――もっと悪ければ、退学になってたかもしれなかったのよ⁉︎」
そう言って、彼女は立ち上がる。
「では、皆さん。お差し支えなければ、私は休ませて頂くわ」
フンッとそっぽを向いたハーマイオニーは、ウェーブのかかった栗色の髪をなびかせて去って行った。
その様子をロンは呆れた表情で見送り、口を開く。
「お差し支えなんかあるわけないよな。あれじゃ、まるで僕たちがあいつを引っ張りこんだみたいに聞こえるじゃないか。ねぇ?」
「うん……死ぬより悪いことなんて、あるわけないよ。ねぇ、ハリー?」
同意を求めれば、ハリーは何かを考え込むようにして黙っていた。
「ハリー、どうかしたの?」
もう一度尋ねれば、彼は「何でもない」と笑う。
それから、シオンはハリーたちと別れ、寮の部屋へと戻った。
「シオンさま、どこへ行ってらしたの? 心配していましたのよ」
「ヒマワリ……ずっと起きてたの?」
すると、彼女は首を振って、「小一時間ほど前ですわ」と訂正する。
ヒマワリがシオンの頬に触れ、心配そうに眉を下げた。
「酷くお疲れですわね。どうしましたの? 何かありまして?」
充分過ぎるほどに『何か』はあったが、それを答えることなどできるはずもない。
結局、シオンには曖昧に笑ってやり過ごす選択肢しかなかった。
「何でもないよ。眠れなかったから、談話室で月映さまと話してたの。ごめんね、心配かけて」
「そうですか……あたくしに言えないことなら、仕方ありませんわね」
含みのある言い方に、嘘が悟られたことはすぐに分かる。
けれど、今はヒマワリの好意に甘えることにして、シオンはベッドに入った。