第10章 姫巫女と三頭犬の隠し扉
龍宮に伝わる子守唄に、いつしかケルベロスは床に伏せ、大きないびきをかいて眠り始めた。
その光景に息を呑んだ四人を、シオンが振り返る。
「みんな、今のうちだよ!」
我に返った四人のうち、ハリーがノブを捻ってドアを開いた。
五人で廊下へ出て様子を窺ってみたが、フィルチの姿はないようだ。
シオンたちは無言で廊下を駆け、グリフィンドール寮の入口である『太った婦人(レディ)』の前まで辿り着いた。
婦人は戻って来ており、五人の姿に目を丸くする。
『まぁ、いったいどこに行ってたの?』
顔を紅潮させて息を乱す五人は、「何でもない」と首を振るしかなかった。
息を整えたハリーが合言葉を紡ぐ。
「何でもないよ――《豚の鼻(ピッグスナウト)》、《豚の鼻》」
パッと肖像画が前に開き、ようやく寮の談話室へ戻ってきた五人は、暖炉の前の肘掛け椅子に座った。
ケルベロスを思い出せば、心臓がバクバクと鳴る。
「……シオンが……もし、シオンが一緒じゃなかったらって考えると、ゾッとするよ……」
そう、ハリーは言うが、彼女自身もゾッとしていた。
もし、月映が『ケルベロス』というヒントをくれなかったら。
もし、ケルベロスが自分の子守唄に耳を傾けてくれなかったら。
正直、運が良かったとしか言えない。
ネビルなんて、まだ放心状態だった。
「あんな怪物を学校に閉じ込めておくなんて、連中はいったい何を考えているんだ!」
調子を取り戻したロンが肘掛けの部分に拳を叩きつけると、ハーマイオニーがキッとシオンたちを睨んだ。
「あなたたち、どこに目をつけてるの? あの犬が何の上に立ってたか、見なかったわけ?」
「床の上じゃない?」
「僕、足なんか見てなかったよ。頭を三つ見るだけで精一杯だったし」
ハリーとロンの回答には、シオンも同意見である。
ネビルに至っては考える気力すらないようだ。