第16章 憎しみの渦
(カカシ先生…どうしよう…)
脳裏によぎるのはやはりカカシ先生だった
一瞬の油断でやられてしまった
「サスケ君…お話…したかったのに……」
先程私が庇った女性はギリギリ意識があった
しかし私がここで死んだら彼女も確実に殺されるだろう
(あの女性は確実にサスケ君の何かを知っている。なんとか、なんとか彼女だけでも連れて帰って今の状況を誰かに伝えなきゃいけないのに…)
「私、里に戻らないと…なのに…こんなとこで…死んでたまるか…!」
少しずつ後退り、サスケ君との間合いを確保する
(周りに何か役に立つ植物は…)
周りを見ながらポシェットに入っている種を掴む
「ろくに動けないのによくそんなことが言えるな。次で死ぬ。
そうだな、お前の“仲間”ついでに、一瞬で楽にしてやるよ。」
そしてまたサスケ君は腰につけた刀を抜いた
(どうしよう…この距離じゃそれは避けられない…!)
ゆっくりと首元刀を当てられる
ひんやりとしたその感覚が私に現実を知らしめ、
プルプルと手が震え、掴んでいた種がぽちゃりぽちゃりと音を立てながら川の底に落ちた
サスケ君を説得できなかった
(もう少し…私に力があったら……)
くだらない事をしている私たちをくすりと笑いながらもついてきてくれた彼が…
一瞬垣間見えた気がしたからこそ、悔しさが込み上げる
「なんか最後に言いたいことでもあるか?」
ふっとサスケ君が笑うが殺意はそのままそこにとどまっていた
「どうか、私で最後にして。
もう、お願い…手を汚さないで……。」
川底に落ちた種に視線を落とす
(あぁ、これは、木の葉の復興で、花壇に植えようとしていた花菖蒲の種だ…)
「丁度よかった…。サスケ君、私ができる事、私は最後にするよ。」
震える手を広げ手のひらに握っていた全ての種を落として心の中で願う
「花菖蒲……。花言葉は「あなたを信じる」」
力を込めると紫色の花が足元に生い茂る
「……くだらないな」
「そうかな、この紫色の花、すごくサスケ君に似合っているよ」
(あぁ、これが最後になるんだろうな。
カカシ先生…カカシ先生……ごめんなさい)
ぽろりと涙が水面に落ちた瞬間
銀色の刃が首元を離れ天を仰ぐ
風を切って私の首元へ向かって振り翳された