第11章 君のくれた笑顔を君に
「さて、楓は昨晩そのまま寝ちゃったし、家に帰って着替えてから修行に行くよね?まだ時間も早いしよければ送っていくよ」
そう言いながら手際よく身支度をするサイに対して断れるわけもなく
流れで家まで送ってもらうことになった
外に出ると暖かい日差しとは対称にまだひんやりとした風が頬を撫でる
「気持ちがいい天気だね」
そんなことを横で言っているサイを見ると
本当にこの人は変わったなと実感する。
「サイがそうやって優しく笑うのを見ると、なんかすごく安心する」
「えっ?どうして?」
「以前のサイは天気なんか気にしてなさそうだったもん。全てに対して塞ぎ込んでいたというか、目を背けていたというか。」
わかりやすく数秒間悩んでから、確かにそうだねとサイは笑った
「楓に会ってから、変な事ばっかり起きるよ。自分もこんなに感情がある人間だなんて思わなかった。
……楓にはどう見えているかわからないけどさ、僕は朝からずっとドキドキしてるし、楓の顔を見るたび頭の中がふわふわするというか……
これが幸せなのかなって、今も隣を歩きながら思ってる。」
思わずサイの顔を見ると、真っ白な肌のサイの頬がほんの少しだけピンク色になっていた
「ドキドキしてたの、私だけじゃなかったんだね」
ピンク色の頬のサイの顔がなんだか見慣れなくて面白くて、ふふっと笑いが込み上げてきた
「楓…僕の顔見て笑ったでしょ?」
一度面白いと思ってしまうとさっきの恥ずかしさよりも感情的になりながらこちらを見てるサイがおかしくて頬が緩んでしまう
「…もう。楓が可愛いのと、馬鹿にしたのが悪いから。我慢するのに必死だし、これくらいは許して」
サイはそう言うとけらけらと笑っている私の右手を取って、手を繋いできた
「…っ!!」
引いたと思った恥ずかしさがまた一気に込み上げてくる
「……楓、顔真っ赤。これでおあいこだね?」
サイが小悪魔な発言とは裏腹にすごく幸せそうな顔で私を覗き込むせいで
私はサイの左手を振りほどけないまま帰路についた。