第3章 彩斗様 鳴上嵐
「おはよう」
いつもの通学路に瀬名先輩がいた。
信号を待っていると声をかけられて、私も挨拶を返した。
「……なに、かわいいのつけて」
瀬名先輩が驚いて聞いてくる。
私は別に、とそっぽを向いた。
「もっと明るい色が似合うんじゃないの~」
「……………だ、だって………初めて……買って…」
しどろもどろに言って口元に指を当てる。
色つきのリップクリーム。おまけにフルーツの香りつき。
「………やっぱ…やめます」
真っ赤になってティッシュを出そうとすると、先輩がそれを取り上げた。
「ま、最初はそんくらいが妥当。センスはあるんじゃない?」
素っ気なく言われて、逆に恥ずかしくなった。
あぁ最悪だ。こんなの気の迷いよ。昨日、ボロボロに泣いて、月永先輩によしよしされて、ちょっと頭がおかしくなったの。
ダメだダメだ、私、世界一かわいくない。
「……………………怒られますかね」
「学院が化粧禁止なわけないでしょ~?あのバカも毎日やってきてるしねえ。」
そのバカが誰なのかわかって、私は縮こまった。
「バカって?」
そんななか、ひょっこり私の前に顔を出す男が。
「…………じゃあね」
「ちょ、瀬名先輩……ッ!!」
すたこらと去る彼の背中を追いかけようとするも、ちょっと踵を返したような顔が怖くて近づけなかった。
「…………あらあらぁ、泉ちゃんったら。」
嵐が肩をすくめて言う。
あーもうかわいいなあ………。
「まあ!」
しかし、そんななか嵐が叫んだ。朝からなぜその声量が出るのか、と戸惑っていると彼はグイグイ私に近づいてきた。
「かわいい~!!色つきリップしてるのね!珍しい…っていうか初めてじゃない!?それどこのやつなの?良い色ね、マッド寄りの……あ、ダークレッドかしら!」
……………食い付きがすごい。
私が何も話せずに黙っていると、嵐はハッとしたように私から離れた。