第3章 彩斗様 鳴上嵐
嵐は………最近は……言葉数が少なくって、私も全然話さなくて。
こんな風にたくさん言葉をくれるのは何年ぶりだろう。
「えっ……と……ご、ごめんなさい……」
嵐が顔を歪める。黙ってしまった私に、悲しそうに。
「あ…アタシ、部活の朝練行かなくちゃ。」
またね、と嵐が手を振る。
嘘つき。
今からじゃ遅い時間じゃない。
朝練なんて、行かないじゃない。
そんな顔して、無理矢理、嘘ついて。
嘘つき。
嘘つき嘘つき。
月永先輩、月永先輩。
私、何て言ったら良いですか。わからないです。誰よりも嵐のことはわかるのに、私のことがわからないです。
よく踏ん張ったって、私、何もしてないの。かわいい嵐に負けないように、自分で自分を諦めたんです。
「……………あ…あら…」
声が掠れる。バカ。何のためにこんな慣れないことしたの。口がベタベタして気持ち悪いし、コップには色がつくし、正直はみ出さないようにとか気を付けるの面倒くさいし。
「あらし!!」
絞りだしような甲高い声。犬の散歩をして通りかかった人が何事かと振り向いて、すぐに歩いていった。
ほら嵐、驚いてる。
大きな声出されて、名前呼ばれて。
「あ、あ、あり…」
声が震える。
目が開けてられない。ギュッとつむって、ちょっと先にいる彼に伝える。
「あり、がと……ありがとう…!い、いつも…褒めてくれて、ありがとう!き、きょ、今日も嵐、かわいくって、だから、その、えっと……!」
目を開けると、戸惑う彼の姿があった。
ああもう、恥ずかしい。
目を見て嵐と喋ることなんて、やってこなかったのに。
「私も……負けずに、がんばるから!」
「隣にいてね、嵐」
ずるいって思うだろうか。
今更なんて。
でも、そんなこと思わないって、あなたはさ。
笑ってくれるって。
うなずいてくれるって。
隣にいてくれるって。
もう、とっくの昔から知ってたんだ。