第3章 彩斗様 鳴上嵐
「…………………嵐は…かわいいです」
月永先輩に言う言葉がなくって、もう諦めのように言った。
きっと答えなんてない。正解なんてものはこの世のどっかに行ってしまって、私の手の届かないところにある。
「……そんなことを言う私が……世界で一番かわいくないんです。」
不器用に笑った。
嵐のことは、ちゃんと、ずっと見てたから。
何かわかってしまうんだ。きっと私の悩みだって知ってたんじゃないかな。私の前で無理してたんじゃないかな。苦しんだんじゃない?悲しかったんじゃない?
「…………私…消えちゃえばいいのになあ……」
ねえ、先輩。
その通りなんです。
私、世界で一番かわいくない。
嵐が世界で一番かわいそう。
「消えるな、俺が悲しい。」
「…………………」
「そうしたらナルはもっと悲しむ。俺より、ずっと。」
月永先輩が真剣な顔で言うので、その迫力に黙ってしまった。
だってね、私、かわいくないんですよ。
お化粧だってしないし、お洋服とか興味ないし。
雑誌も読まない。好きなアイドルもいない。
タピオカだって飲まないし、甘ったるくてパンケーキも嫌い。
「泣くな泣くな。可愛い顔が台無しだ。」
今だって、ぶさいく。涙流して、顔グシャグシャにして泣いて。目をこするから、真っ赤なんでしょうね。
「こんな可愛いヤツを泣かすナルは俺が許さんから、ほら泣くな。」
「………ッ、嵐、悪くな…い…」
「そうかそうか。じゃあ泣いていい。」
先輩がポンポン背中を叩く。
「よく踏ん張った、今まで。」
かわいいかわいいと褒められる幼なじみの隣で、惨めに歩いてきました。
私は、かわいいと褒められたことはありません。
私を褒めてくれたの、幼なじみだけです。
世界一かわいい幼なじみが、私を褒めてくれたんです。
嬉しかったのに、知らんぷりをしました。
私は、今でも後悔しています。