第3章 彩斗様 鳴上嵐
嵐は可愛い。
私はそうして、自分を諦める理由にした。
「何でそんな顔してるんだ?」
いつも落ち込んだ顔をする私に、月永先輩はそう聞いてくる。
「笑えばいいのに、楽しいし。」
「………先輩」
いつもそう言う。作曲するときも手を止めて言うし、レッスンの休憩中にも言う。
今日も、こうやって廊下でバッタリ会っても言ってくる。こんにちはとか、そんな挨拶なんて後回し。
「笑ったって、どうしようもないんですよ。」
私はいつもこう答える。
だってその通りだから。笑ったって、おしゃれしたって、何したって、私は嵐に敵わない。
勝負してるわけじゃない。負けたって悔しくない。でも、むなしい。
ただただ悲しい。自分が嫌になる。みじめになって、ウジウジして、可愛い嵐に悲しい顔をさせる。
いつも隣にいる嵐が、悲しそうに顔を変える。
「そんなのかわいそうだ。」
そう言う先輩の顔が、誰よりも悲しそうで……。
「そんなの、ナルがかわいそうだ。」