第2章 マリー様 七種茨
ご神木だかなんだか、馬鹿に大きな木の近くのベンチで待っていることをメールでに伝えた。
先ほどあげた絵馬のSNSがなかなか好評だったが、いちいちチェックする余裕はなかった。
素直に言うなら、俺はソワソワしている。
は本当に来るのだろうか、来ないのだろうかと心が落ち着かない。俺だったら絶対行かないと思う。フッた奴からの誘いなんて無視する。
それでも
「茨くん」
やっぱり、お前は来てくれる。
何回も聞いたその声に心が踊った。にやつく顔を抑えて彼女を見やった。
「はい。ストレートだけど。」
彼女が差し出したのは、小さな紅茶のペットボトル。それに触れると暖かく、自分の体がどれだけ冷えていたかがわかった。
「外で待ってるなんて言うから、走ってきちゃった。」
はにこりと笑う。先ほどまでの巫女装束とはうってかわって現代感溢れるジャージを着ていた。女子の私服としてはどうなんだと思うが、らしい。
走ってきたのは本当だろう。髪が乱れているし、息が荒い。
俺が勝手にやったことなのに、お前は。
「自分も寒いくせに」
手を伸ばしてその頬に触れた。真っ赤なくせに郡みたいに冷たい。
俺の両手に収まるような小さな顔は、出会った頃の面影を残していた。
「……っ!!」
は一瞬で身を引いた。
するりと簡単に俺の手から逃げた。
「……………ダメ、………なんだよ…」
震える声で、俯いて。
「…お願い…………」
祈るように両手を組む。
「そんなの、困る、もうやめて」
その必死な懇願を聞き入れてやりたいと思った。でも、ここで引き下がったら意味がない。
「それはプロデューサーとしてですよね」
「…………」
はハッとして顔をあげた。
「………私…」
彼女の顔からさぁッと血の気がひいていく。
あぁ、そんな顔をさせたいわけじゃない。
固く握られた手に俺の手をのせた。冷たかった。冷え性でもないくせに、冷えきっていた。
「…あったかいね、茨くん」
はそう言って切なげに笑った。
「ごめん、ね」
震えた声が耳に残った。
その謝罪の意味くらいわかる。
気持ち悪さから、これでようやく解放される。