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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第8章 【家康・後編】※R18


『いや…ないか』
叶わぬ思いを吐き出すように、竜昌は大きく息をつき、自虐的に笑った。
明日、このまま安土に帰ってしまえば、今後家康と会える機会も、そうそう無いだろう。
ふと本多のことを思い出す。
『もし、私が本多様の側室になったら…?』
家臣として常にお側にいることもできる。戦場で共に戦うことだって夢ではない。
なんだったら本多との間に子をもうけて、子々孫々、家康とその家系をお守りすることだってできる。
なんだか急に、本多の側室になることが妙案のようにすら思えてきた。
しかしどうしても、そうなる自分の姿が想像できなかった。
『困ったな…明日のために寝なきゃいけないのに』
ざわつく気持ちを抑えきれず、竜昌は起き上がって、廊下へと続く障子を開けた。
するとそこに立っていた人と、真正面から、息もかからんばかりの距離で対面することになってしまった。
「い、家康様!?」

同じく驚いた顔の家康の顔を見上げる。いつかみた翡翠の瞳に、竜昌が映っている。
どこかで見た光景だな、と竜昌は瞬時に思った。そうだ、あの時安土で家康を呼びにいって、傷薬の小瓶をもらった時…
思わず竜昌は、懐に入っている薬瓶を衣の上から手で押さえ、確認した。このところ、その薬瓶があるのを何かにつけ確認するのが癖になっていた。
衣ごしに伝わる、ガラス瓶のごつごつとした手触りが、竜昌を安心させた。
家康は竜昌を見つめながら、客間の中に一歩入ると、後ろ手で障子を閉めた。
「話がある]
「は…い」
竜昌は家康に上座を譲り、畳の上にちょこんと正座をした。しかし内心は早鐘のように脈打つ心臓の音が、家康にまで伝わらないか、気が気ではなかった。
家康も静かに胡坐をかくと、小さくため息をついた。
心もとない行燈の火がジジ…と揺れ、二人の陰をゆらめかせる。二人とも話しかけるきっかけを失ったままの沈黙は、永遠に続くかのように感じられた。
「あの…」
「あ…」
二人同時に口を開きかけて、また押し黙る。

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