第1章 【女城主編】※共通ルート
「藤生竜昌でございます…」
「まあそう固くなるなよ。ほら俺も刀はもってない」
手をパッと開いてみせて、政宗は笑った。端正な顔に浮かぶ屈託のない笑顔は、不思議と人の心を和ませる。
「ここは安土城下の俺の屋敷だ。お前三日も眠りっぱなしだったんだぜ?」
「三日…」
「具合はどうだ?痛いところはないか?」
「はい…恐れ入ります…あ、あの」
「ああ、秋津のことが心配だろう」
竜昌が言い出すよりも先に、政宗が話題を持ち出した。図星をさされた竜昌の喉がごくりと鳴る。
「みんな無事だ。城もな」
ほーっと安堵の息を大きく吐いた竜昌の目元がかすかに潤んだ。大きな緑黒色の眼を縁取る長い睫毛が、涙でしっとりと艶を帯びる様子がなんとも色っぽい。
政宗は再び、戦場で見た竜昌の夜叉のごとき姿を思い出し、頭が混乱しそうになった。
「今は俺の部下を二百人ほど秋津城に置かせてもらってる」
度重なる戦に兵をとられた秋津国は、とにかく男手が足りなかった。
伊達家から秋津城に送り込まれた侍たちは、今ごろ戦後の処理や、壊れた道や橋、城下町などの補修のために腕を振るっているだろう。
「兵糧もちゃんと、返しといたからな」
政宗その言葉を聞いて、竜昌は一歩うしろに下がり布団から降りると、床に頭をつけてひれ伏した。
「ありがたき幸せ。この竜昌、もうこの世に思い残すことはございません」
「待て待て早まるな。信長様がお呼びだ。お前を安土城に連れていく」
「(打ち首か、磔か…)」
「小十郎、支度させてやってくれ」
「かしこまりました」
─── ◇ ─── ◇ ───
「まあまあまあまあ、御館様のお若いころの御召し物がぴったりでよかったわ~」
着替えを手伝ってくれた女中が、年甲斐もなくはしゃぎながら、竜昌の姿をためつ眺めつしていた。
てっきり死装束でも着せられるのかと思っていた竜昌は驚いていた。どうやらこれは政宗の着物らしい。
洒落者との噂にたがわず、その小袖は決して派手ではないが美しい格子柄が織り込んであり、人目をひきつける物だった。珍しい小豆色の袴とも、合わせてみるとしっくりきた。
「御館様がお選びになったんですよ」
「伊達様が…」
その時、障子の向こうから政宗の声がした。
「支度はできたか?」
「はいはいただいま~」