第1章 【女城主編】※共通ルート
片手で馬を巧みに繰りながら、少しも速度を落とすことなく戦場を疾風のように駆け抜け、確実に相手の急所を仕留める正確無比な太刀筋を見て、政宗は久しぶりに戦慄を覚えた。
目の前に力なく横たわっている美しい女の姿からは、まるで想像もつかない出来事だった。
─── ◇ ─── ◇ ───
目を覚ますと、見慣れない天井が目に映った。次に、嗅ぎなれない香の匂い。
体が木偶のように固まり、言うことをきかない。指先から少しずつ動かして体をほぐしていく。拘束はされていない。
肌ざわりから、どうやら上等の夜着を着せられ、布団に寝かされているようだった。
『外に二人…見張りか』
眼だけ動かして、障子に映る影を見る。
枕元に水差しと湯飲み、さすがに刀は取り上げられている。
静かに体を起こそうとしたが、床がギシっと鳴ってしまった。
『おい』
『ああ』
障子の外に控えていた二人がにわかに動き出し、合図しあうのが聞こえた。
一人が立ち上がって、どこかへ駆けていった。
もう一人が「御免」という声とともに、サッと障子をあけた。小柄だが屈強そうな若い侍だ。その手には抜き身の刀が握られている。
「お目覚めになりましたか。ただいま主を呼んでまいります。どうかそのまま」
慌てずに夜着の襟を正し、竜昌は布団の上にきちんと正座をした。
「その物騒な物をお納め下さい。このとおり逃げも隠れもいたしません故」
「失礼いたしました。かの藤生竜昌様ともなれば、ゆめゆめ油断せぬようにとの主の言いつけでございましたので」
そういって侍は、刀を鞘に納め、竜昌と向いあうように座った。
「某(それがし)は片倉小十郎。伊達政宗公にお仕えしております」
「伊達殿の…」
ようやく自分のいる場所を理解した竜昌は、だんだんと記憶がはっきりしてきた。
秋津城は!?民は!?
そのとき、ダンダンと大きな音をたてて床を蹴り、誰かが足早に近づいてきた。
小十郎がサッと道を譲ると、隻眼の武将、政宗が姿を現した。
「よお」
拍子抜けするような軽い調子で挨拶すると、政宗は竜昌の前にどっかりと胡坐をかいた。
「伊達政宗だ。その節は世話になったな」
世話をしたつもりもないし、いきなり手の届く距離に侵入してきて、好奇心に満ちた眼で不躾に竜昌を眺める政宗に、竜昌は面食らった。