第1章 【女城主編】※共通ルート
女中が障子をあけると、そこには先ほどのくだけた衣とは違い、きりりと正装した政宗が立っていた。
政宗は顎に手をあて、ニヤニヤしながら辰昌の頭からつま先までじっくりと眺め「よし」とひとりごちた。
「さあ安土城へいくぞ。ついてこい」
「…」
「いってらっしゃいませ御館様」
女中に見送られ、数人の家臣とともに伊達家の屋敷を出ると、すぐ目の前に安土城がそびえたっていた。
黒々とした頑強そうな柱に真っ白な壁、青黒く輝く屋根瓦、七層もの高さを誇る天主閣の最上階は、黄金色に輝いている。
その荘厳な天主閣の姿に竜昌は圧倒され、しばし自分がそこへ死罪の沙汰を受けにいくということさえ忘れて見入っていた。
そして秋津城で対峙した信長の、射るような緋色の眼差しと威圧感を思い出していた。
─── ◇ ─── ◇ ───
「目を覚ましたか」
「そのようです、まもなく登城すると政宗から使いが来ました」
秀吉から報告をうけた信長は目を細め、広げた扇で緩む口許を隠した。
「まぁ信長様、嬉しそう」
傍にいた舞が、信長の緋色の眼を覗き込んでにこりと微笑んだ。
「妬いたか、舞」
「そんなことありません!」
信長は、ぷいと横を向いて頬を膨らませる舞の顔を愛おしそうに見つめた。
「腕のたつ武将を配下に加えるのは、美姫を腕に抱くのとはまた違う喜びなのだよ」
「でも女の方なのでしょう?」
「ああ。おなごにしておくには惜しい武将だ」
信長はパシリと音をたてて、開いていた扇を閉じた。
「秀吉、皆を広間に集めよ」
「はっ」
─── ◇ ─── ◇ ───
酉の刻。安土城の謁見の間に、主だった武将と重臣たちが集められた。
上座の信長の左手に控えるのが、豊臣秀吉、その隣に石田三成。右手には舞、徳川家康が控えている。
「伊達様ご到着です」
「通せ」
謁見の間の襖がスッと開くと、隻眼の武将・伊達政宗と、その後ろに控えるように、一人の侍が立っていた。
「信長様、お待たせいたしました。これに藤生竜昌を連れてまいりました」
噂に聞こえた竜昌を一目見ようと、家臣たちが興味深そうに政宗の背後を覗き込んだ。