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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第8章 【家康・後編】※R18


否定する竜昌にもめげず、尼僧は笑顔を絶やすことはなかった。
「強く…強くありたいと願っておりました。強くさえあれば、国を守れると…」
竜昌が膝においた手をギュっと握りしめた。
「人一倍強くあろうと、女だてらに武芸に励み、勤めも果たして参りました。でも、そうする度に気付かされるのは、自らの強さではなく、周囲の強さと、それに支えられている自分でした」
尼僧は何も言わず、ただニコニコと竜昌の話を聞いていた。
「例えば、あの薬師堂の木札のように…我が子を亡くしたとしても、強くたくましく生き、夫を支え、次の世に命を繋いでいく。そんな女性の強さに私は何度救われたことか────」
竜昌はそこで言葉を切った。
「その言葉、あのお方に聞かせてあげたいわね」
尼僧がそうひとりごちた。
「え…?」
「いいえ、こちらの話」
相変わらず笑顔の尼僧。不思議なことに、何も聞かれていないのに、いつのまにか竜昌は心の内をさらけ出してしまっていることに気付いた。
「申し訳ありません、通りすがりの侍の、戯言(ざれごと)にございます」
「いいんですよ。悩み、苦しむのが人の世です。そうして皆少しずつ、強くなっていくのです」
「はい…」
「殿方のいう『強さ』とは違い、あなたの強くなりたいというお気持ちは、すなわち他人の役に立ちたいというお気持ちそのものとお見受けしました。どうか大切になさいませ」
「はい」
尼僧の言葉は、優しく竜昌の心を包み込むように響いた。
やがてにわか雨は止み、寺の境内にできた水たまりには、風に流れ去る雨雲がと、その隙間から覗く青空が映っていた。
竜昌は、この寺にたどり着いたときとは打って変わって晴れ晴れとした表情で、尼僧に深く礼をした。
「そろそろお暇いたします。お茶をご馳走になり、かたじけのうございました」
「またいつでもいらして下さいませね」
「はいっ!」
元気よく返事をしたが、竜昌にはここへ二度とこれないだろうという切ない予感があった。自分は信長の家臣。そして…
寺を出る前に、最初に雨宿りした薬師堂に寄り、懐から例の薬瓶を取り出すと、、竜昌はそれをやさしく挟むようにして、もう一度手を合わせた。薬師如来の霊験が、この薬に宿りますようにと。
『あの薬瓶は…』
尼僧は竜昌の後姿を見送りながら、少しだけ首を傾げた。

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